2004年09月25日

犬士駆ける!第3−2話

すいません、ちょっとここで出してみます(笑)
犬士って何?って知りたい方は、私のメインHPまで。

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久々に活気のある町へ出て、ぐっと背伸びをする。
「さて…まずはハチんとこへ行かねぇとな…」
下駄をからころ鳴らせ、向かうは目抜き通りの蕎麦屋まで。
さきはきまって、そこで一杯引っ掛けるのが日課なのである。

─気楽屋─
はためくのれんに屋号が。
そこがさきの「もうひとつの居場所」。

いつでもここは大賑わいなのだが…でも決まって一箇所、さきの為に取ってある座敷席がある。
「こんちわ、入るぜ」
いくら満腹でも、そののれんをくぐった瞬間にお腹の虫がぐぅと鳴る。

「あっらぁ〜さきさんお帰りなさい」
看板娘のお千代が、さきを見とめるなり声を上げる。
「おぅ、帰ってきたかさき」
店の奥で蕎麦を茹でている千代の親父も、彼女に軽く手を振る。
「いつものやつ…と、熱燗だったわね」
「あ…っと、今日は冷でいい」
「珍しいわねさきさん、いつも冷酒なんて飲まないのに」
「あぁ…今日はちょっとね」

いつもはここへ来ると決まって熱燗を頼むのが彼女なのだが《何か特別なこと》があるときは冷えた一杯を頼む…さきのちょっとした癖だ。

「ハチは来てるのかい?」
「あ、いつものとこにいるわよ」

横目でちらっと奥の座敷を見る。
いつもの姿を見つけ、そろりそろりといつもの席へ…

ばん!
「なに一人で飲んでんだ〜!」
ハチの背中に強烈な張り手一発!
「ぶほ!」堪らず咳き込む。

「なんなら俺がお酌してやろうか、ハチ?」
「さき…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハチ…本名は鉢須賀五郎兵衛っていう仰々しい名前。
だけど決まってそんな名前で呼ばれたことはなく、<ハチ>とみんなで呼んでいる。
職業は、ここいったいを取り締まっている岡っ引きの一人だ。
とはいっても…ここ一ヶ月あまりは至って平穏無事な日々、ゆえにハチも暇な毎日である。

「いつ帰ってきたんだ!さきぃ!」
「いいじゃねぇか、俺がいつ帰ろうがお前にゃ関係ねぇだろうが」
「関係あるもないも、てめぇ!お前がいない間ずっと大変だったんだぞこらぁ!」
「へぇー、どこが大変なんだ?昼間っから一杯飲んでて大変もクソもあるかってんだ」
「クソもへったくれもあるか!酒ぐらいゆっくりここで飲ませろ!このすっとこどっこい!」
「すっとこどっこいはおめーの方だろうが!この万年岡っ引き!」
「言ったな!この万年浪人!」
「浪人じゃねーっつってんだろうが!一応俺は武士だってーの!」
「まともに仕事もねぇ野郎がいっちょまえに武士だってかっこつけんな!」
「ンだとこの金無し色気無しの万年岡っ引き!」
「おーおー、言ってやるよ!この仕事無し色気無し!」


「お、始まったねいつもの喧嘩が」
向こうの席で食事をしている客たちは、この言い争いに特に慌てる事もなく…楽しんで聞き入っていた。
「やっぱこれが無いと、ある意味このお店の名物だもんね〜」
「ほんとほんと、<喧嘩するほど仲がいい>って諺はこいつらの為にあるようなもんだ」

口喧嘩は激しいが、お互いは絶対に手を出したりしない。
それに何故か…二人の間には笑顔すら浮かんでいた。


そんなこんなで、江戸の町は始まっていくのである。
posted by たか☆ひ狼 at 23:56| 神奈川 霧| Comment(8) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月07日

ようやく見つけた…

デリンジャー
ハイスタンダード・デリンジャー…ハドソン製モデルガンです。

posted by たか☆ひ狼 at 18:20| 神奈川 曇り| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月04日

注釈〜!

一部、変な文字化けがあるのですが…
自HPの方でUPすると、何故か「仕様」で一部の文字&単語が化けてしまうのです…(泣)

「ボソッと」「ぽつりと」「十数個」「数十個」などがその最たる例です。

ところどころ変な部分発見されましたら、コメントにでもお願いします〜



お詫び:自己紹介欄のメールアドレスは現在使われておりません。
posted by たか☆ひ狼 at 15:28| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワラビーV 1話

第一話《砂漠の三人》


砂だらけの平原を、一台のジープがもうもうと砂煙を立てて走っていた。
運転席に大柄な青年が一人、そして助手席で鼻歌を歌っている少女。
そして後ろの荷台には、大きな荷物と小さな荷物が積んである。
どこかの軍隊が使っていたかのような、ちょっとぼろが入った服をそれっぽく着こなしている。
「ふんふ〜ん♪」助手席の少女は、満面の笑みで札束を数えていた。
「いい加減に札数えるのやめないか?もうこれで10回目だぞ!」ジープの騒音にかき消されないよう、運転手が大声で怒鳴りつける。
「わーったわーった!耳元で怒鳴るのやめ!ただでさえお前の地声ってでけーんだから」
怒鳴る時に唾が飛び散ったのか、札束の少女は袖口で顔を拭きながら嫌々答えた。
「でもさ、今回の仕事はラクだった割にはもらったお金多いんだよなー、偽札入ってやしないかって思って・・・」
そういうと、少女は札束を1/3位に分け、青年に渡した。
「じゃハッサク、これがお前の取り分ね」
「あぁ」運転手の青年=ハッサクは、確かめもせずにもらった札をそのままズボンのポケットにねじ込んだ。
「んで・・・残りが俺の分と組合・・・」残りの札を胸ポケットに入れる少女、すると。
「・・・僕の分は?」後ろに積んであった小さな荷物がぴょこんと起き上がった。
明らかに、前の席の二人とは年齢が違う、まだ子供同然だ。
「ねぇ・・・僕だって働いたよ、なんで分け前ないの?」
「ビャッコ・・・お前そんなに働いたか?見張りぐらいのことしかしてねーだろ?」
「でも働いたよ!」その子供=ビャッコは、小さな手を助手席の少女の胸へと伸ばす。
「フコーヘイだよ!ルールイハンだよ!買いたいものいっぱいあるんだから!」
「ひゃっ!バカ!どこさわってンだ!」必死に抵抗する少女。
と、突然
  ガン!
運転していたハッサクの拳が、ビャッコの鼻面にヒットする。
「うぐ・・・」鉄拳を喰らったビャッコは鼻を押さえて、荷台にしゃがみこんだ。
「・・・コユキの言うとおりだ、お前は全然仕事してない」
「・・・・」ビャッコは黙ってハッサクをにらみつけた。
「でもな、何もやらないコユキも悪いぞ、少しでもいいからビャッコに渡せ」
「・・・分ったよ・・・ちぇっ」口を尖らせながら、渋々ポケットの札1枚をビャッコに渡した。
「・・・」黙って札を受け取るビャッコ。
「礼ぐらい言え・・・」コユキはむすっとした顔でビャッコをにらみつけた。

「・・・ありがと」

砂漠のはるか前方に、大きな街が見えてきた。
posted by たか☆ひ狼 at 15:23| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワラビーV 2話

「ビャッコ、強くなりたい」


「ふう・・・やっと着いた」ゆっくりと背伸びをしながら、コユキがつぶやく。
「組合まではこの車であと一日はかかるからな・・・今日はここでメシと燃料だ」
「やった、買い物買い物!」ハッサクの後、ビャッコが走り出す。

─通称、市場の街─
元は首都に近いところだったらしく、かなりの人でにぎわっていたらしいが・・・大戦でほとんど崩壊してしまった。
今は当時のなごりを残す高層ビルのガレキと、それを取り囲むようにたくさんのバラック建ての露天が軒を連ねている。
ビャッコたちが着いたのはちょうど昼頃、昼飯時かかなりの人手だ。

「ひゃ〜、すっごいなぁ、ウチ等の街でもこれほどの人いないぜ」
コユキが辺りを見渡しながら、その人の多さに驚いていた。
「ね、ね、コユキ」ビャッコが彼女の服のすそをぐいぐい引っ張る。

ビャッコはお世辞にもあまりいい身なりではない。
だぶついたシャツの上に大きなカーキ色の軍用ベスト、膝下丈のポケットがたくさんついた太いバギーパンツ。
パンツも大きすぎるのか、ベルト代わりにボロボロの紐で腰を結わえている。
履いている靴は左右の大きさも型も違う、ゴミ同然の靴だ。
開いてしまった底をテープでぐるぐる巻きにしており、ワニの口のように開いた爪先からは、
土埃に汚れたビャッコの小さな足の指がぴょこんと顔を出している。
そして、どこかから拾ってきたらしい戦車兵用のヘルメットを目深に被っているその姿、ちょっと滑稽だ。

でも・・・ちゃんとした服さえ満足に揃っていないこんな時代。こんな身なりの子も人も、それこそ沢山いるだろう。

「僕、銃買いにいきたい」
ビャッコは肩にかけていた小さなリュックから、これまた小さな袋を取り出した。
じゃらんと重い音・・・財布代わりだろうか。
「へ?銃??」
一瞬、コユキはビャッコが冗談でも言ってるのかと思った。
だけど、その目は真剣だ。
「銃って・・・お前、そんな金持ってんのかよ?」
少女は、ビャッコの手からその袋を取り上げた。
「や、やだ、返してよコユキ!」
「大丈夫だって、おめーの金なんて盗りゃしねぇよ」
ビャッコは懸命にジャンプするが、コユキの伸ばした手には到底届かない。
二人の姿を尻目に、ハッサクはどこかへ姿を消していた。

袋の中には、たくさんの小銭と、何枚かの札が詰め込まれていた。
「ふん・・・」コユキは、ぽいとビャッコに袋を投げた。
「・・・盗ってないよね?」上目遣いにじーっと睨み付ける。
「盗りゃしねーっていったろ!だけど・・・銃買えるかどうかは難しいぞ、それに・・・」
「それに・・・何?」
「お前、銃買っていったい何すんだ?」ビャッコの大きな帽子をぽふっと叩く。
「・・・やだ、教えない」ビャッコの口がツンととんがる、すねている証拠だ。
「ぷっ、まさか俺らが寝てる最中襲ったりとか?」いつしかコユキのそれは笑いに替わっていた。
「コユキもハッサクも撃ったりしないよ、仲間なんだし」
「じゃ、俺ら撃たないとしたら何撃つんだよ?トカゲとかか?」
「やだ、教えない!」言うや否や、ビャッコはたっと駆け出す。
「あ、おい!待てよビャッコ!」後を追ってコユキも走った・・・が、すばしこく小さなビャッコにたくさんの人手。
あっという間にコユキは彼を見失ってしまった。
「ま・・・いいか、じきに戻ってくるだろうからな」
コユキもまた、自分の買い物へと足を運んでいった。
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裏通りに面した露天で、ようやくビャッコは銃を見つけた。
「り・・・ぼるばー?・・・おーと?」
夜店の屋台に似たその露天には、軍の使い古しや廃墟から拾ってきたらしい、錆だらけの銃が大量に置いてあった。
後ろには人のよさそうな顔をした50代くらいのオヤジがパイプを吸っている。
「よぉボク!銃買いたいのか?」
物欲しげに銃を見つめるビャッコにオヤジが語りかける。
「う、うん・・・」
「銃といってもピンからキリまであるぞ、どういう銃が欲しいんだ?」
最初はただ見物してるだけと思われたが、こいつは違う。
店のオヤジはそう直感したに違いない。
「えっと・・・強いの」
「強い??」オヤジは目を真ん丸くした。
「強いのが欲しいんだ・・・いいのないかな?」
強いといってもこの子のサイズと落Zにはキリがある。
「ボク、いくら持ってんだい?」
「えっと・・・」
屋台の隅のスペースに、ビャッコは袋の中身をじゃらじゃらと出した。
「これだけ持ってるんだ、だから・・・」
「ふーむ・・・」
オヤジはビャッコの金を数えた。
・・・だが、中身は安い硬貨ばかりだった。
「う〜む・・・」考え込む店主。
「・・・足りないの?お金」ビャッコは心配そうな顔をして聞く。
(いくらこのチビから金ボッたくるにしても、限度ってものがあるわな・・・)
「よっしゃ!」オヤジは何か考え付いたようだ。
「強いのあるの?」
オヤジ店主は、下の方から何かをがさごそ探し出す。
そして手にした銃・・・手のひらサイズだった。
「なにこれ?」初めて目にする銃にぽかんと答えるビャッコ。
カタツムリのようなグリップに、銃口が二つと、むき出しの引き金。
埃まみれだが、ところどころ銀色に輝いていた。
「ボクの為に特別に売ってやろう!」
「・・・なんていうの、これ?」
「えっと・・・何だったっけか・・・」
「知らないの・・・?」
「いや、まぁとにかく!コイツは珍品だぞ!それに強くってボクの手にもぴったりのサイズだ!」
店主はビャッコの小さな手にそれを渡す。
ずっしりと重い。
「わぁ・・・」ビャッコの曇っていた瞳がたちまち輝く。
きっとボディの銀色がダイヤの輝きに見えたであろう。
「それと弾10発でボクのお金全部と交換だ!」

オヤジがどこかの倉庫から拾ってきた銃・・・それはデリンジャーというポケットサイズの拳銃だった。
弾丸を加えてそこそこの値だが、ビャッコの全財産と交換してちょうどいい位だろう。

「ありがとう!おじさん!」
ビャッコは渡された銃と弾をポケットにしまうと、ダッシュで葡ハりへ消えていった。

「ま、いいか、動作は保障できねぇけどな・・・オモチャ程度だ」
オヤジはまたパイプをふかしなおした。

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「コユキーーーーーっ!」服を物色していたコユキの背後にビャッコがタックルする。
「ぐわ!」
「ね!ね!コユキ!銃買ったよ銃!」
ビャッコは倒れたコユキに買ったばかりのデリンジャーを見せた。
「え?こんなオモチャみたいな・・・」
「これで僕強くなれるね!ね!」
─お前、強いってのはそういう意味?─
コユキはそう言おうと思ったが・・・言えなかった。ビャッコの喜ぶ顔を見てたら、そんなこと言えそうになかったから。


と、突然、正面の大きな廃墟から、これまた大きな歓声が上がる。
「何?一体?」驚くビャッコ。

その大きな廃墟・・・皆はコロッセオと呼ぶ・・・大きな競技場だ。
戦争前は大きなドームスタジアムだったらしいが・・・戦争で屋根は吹き飛んでしまい、巨大なグラウンドと観客席だけが残ってしまった。

「コロッセオでやるんだ・・・アレが」はるか遠くを見ながらつぶやくコユキ。
「ね、ね!何アレって!」ビャッコは懸命にジャンプするが、見えるはずが無い。



「バトルだよ・・・」


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《魅せられる》

「ね!ね!バトルって何バトルって?」ビャッコはしつこく問い詰める。
「何だお前、知らないのかよ?」
また、コロッセオから大きな歓声が響く、もはやこれは地響きに等しい。
「・・・仕方ないな、行ってみっか?」論より証拠、見せるのが一番と考えたコユキは、ビャッコの手を引っ張りコロッセオへと連れて行った。
しかし入り口を見つけるのも一苦労。

「さぁさぁ、今日のメインイベント!ブラックタイガーvsミスティッククロウの一戦だ!」
この街ではギャンブルも一つの収入源だ、闘技場の周りのあちこちで卵zや受け付けの声が聞こえてくる。
「すごいね、みんなで賭けやってる」人ごみの中、ビャッコはなにやら嬉しそうだ。
だが・・・コユキは何やら不機嫌そうな面持ちだ。
「・・・・・・」
「どしたの?コユキ?」
「・・・いや、何でもない」
ビャッコには理解できなかった、彼女の面持ちの意味を。

コロッセオはのスタンドは観客で大賑わいだ、ようやくコユキらは外野席(だったであろう)最上段に空いた椅子を見つけることができた。
グラウンドの中、恐らく球場だったものを3つにロープで分け、それぞれ別のジャンルの戦いを繰り広げている。


人はいう、それは無敵の作業機と。
また別の人はいう、それは今の世の戦車だと。
身長約3〜10m、戦車や車に二本の腕と足を備え付けたような、その姿。
通称《MT》マニューバ・タンクと呼ばれているそのマシンが、名誉のため、そしてまた、ここに集う者たちのこころを満たすために、
この闘技場で日夜戦いを繰り広げているのだ。


「ビャッコ、見えるか?」
「うん、大丈夫」
ビャッコたちの近くのフィールドでは、格闘メインのバトルが行われていた。
「今やってるのは格闘戦だな、いちばんオーャhックスなやつだ」
ビャッコの耳元でコユキが説明する(聞こえてるかどうかは判らないが)
全高5m程度のミドルクラスのMT同士の戦いだ、方や卵のような丸っこいボディに砲丸のような拳を付けた純粋な格闘タイプ。
もう一方は人間と同じ指のマニピュレーターにパンチ力増強のメリケンサックを取り付け、角張ったボディの至る場所にスパイクを生やした族なタイプだ。
前の方で見物している連中の会話から察するに、丸いヤツが「オストリッチ・エッグ」スパイク野郎が「ヘッジホッグ」というらしい。
「《ダチョウの卵》と《ハリネズミ》か…」コユキは、そうつぶやいた。
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MT乗りの心得…と言っては何だが、MTの愛称には、動物など生き物の名前が使われているのがほとんどだ。
この世界、動物と言う存在は汚染や荒廃による砂漠化で、一部の爬虫類や鳥類を除いてほぼ絶滅に近い存在になってしまった。
犬や猫といった動物を飼っている者もいることにはいる、でもそれは一部の特権階級や大富豪くらいだ。

そう、MTを作った者たち…そしてそれらを駆るものたちは、戦争によって失われた種へのせめてもの罪滅ぼし…
もしくは、いつか夢見た大金持ちになろうと想う気持ちをMTの名に込めているに違いない。
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「トゲトゲの押されてるね!」ビャッコが歓声に負けじと大声でコユキに話し掛ける。
「そうだな…丸いボディは攻撃受け流せるみたいだからな」
背後にコユキとは違う男の太い声。
「ひゃっ!ハッサク」声の主は、燃料を買いに先に出かけていたハッサクだった。
驚くコユキ。
「メシ買出しに行ってるかと思ってたら、こいつを観てたとはな」
「そういうハッサクも、こんなトコで一体?」とコユキ。
すると、普段は無骨なハッサクが珍しく笑った。
「ぷっ、お互い様だな」
「全くだね、ハッサク」

卵とネズミの戦いはいつしか終わりへと差し掛かっていた。
1ラウンド10分、それを6回の、計1時間強がこの試合の基本だ。
ラウンド間の数分には、MTの簡単な修理と搭乗者の休憩が行われる。

フィールドの隅の方にあるラウンド板を眺めると、既に9ラウンドが経過していた。

基本的に移動手段でしかない「脚」はかなり短い、短足なのはMTの特徴だ。
だが、ここ最近の脚部の改良により、ミドルクラスのMTはちょっとした自動車並の歩行速度を手に入れた。
軽いフットワーク、そして接近しての乱打。
人間たちの行うボクシング以上に「重い」戦いがMTバトルの人気を支えているのだ。

《卵》がダッシュして、ハリネズミの鼻先に砲丸パンチを喰らわす。
ゴン!
パンチの重い衝撃音がビャッコの体中に響く。
負けじと、ハリネズミも太いスパイクの付いた腕を振り回し、何とか卵に一矢報いようとする。
しかし難なく卵は懐にはいり砲丸パンチを連打、次第にハリネズミの体中のスパイクは曲がり、辺りに刺が飛び散る。

「が…がんばれハリネズミ!」熱心に観戦していたビャッコが、あらん限りの大声で叫ぶ。
その直後、劣勢と思われていたハリネズミは、連打の隙を狙って卵の右腕を掴んだ。
ハリネズミは掴んだ腕を思い切り引っ張る。
ブチブチッ!オイルと火花を撒き散らし、卵の右腕が引きちぎられた。
「!!!」息をのむビャッコ。
直後、大きな歓声に包まれる。
バランスを失い、転倒する卵。
だが腕を失ったせいか起き上がれない。
倒れた卵の鼻先を掴むハリネズミ、渾身の力を振り絞り前部の装甲・・・卵の殻を両腕で引き剥がす。
バキッ!メキメキッ!
雷のような音がして、《卵の殻》が引き剥がされる。

そこには…戦意を喪失した卵の乗り手が、両手を挙げてがっくりと力なく座っていた。
そう、《降参》の意思だ。

割れんばかりの歓声がコロッセオを覆う。
そう、この歓声こそが、勝者の証。

「!!……!…!」コユキが何かしゃべっている、が、歓声にかき消されて聞こえない。
「す…ごい…」ビャッコの握り締めた小さな手のひらに汗がにじむ。
「すごいよ!コユキ!ハッサク!すごいよ!」
ビャッコの心は言葉にならなかった。言いたいことがたくさんありすぎて。


「ぼくも…」


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《醒めない思い》

興奮の熱気冷めやらぬコロッセオ・・・
「すごかった!ね!コユキ!ハッサク!」
ビャッコも、またさっきの熱戦の興奮が冷めずにいた。
「あーもーわかったわかった、落ち着けビャッコ」いい加減、コユキはあきれているようだ。
「さて・・・」2人のとなりにいたハッサクが腰を上げた。
「俺はちょっと寄るとこあるけど、それ終わったら・・・」
「何?ハッサク?」
「今日はここで宿とって一晩ゆっくりしよう、俺がおごる」
「え!?」

ハッサクはケチ・・・と言うほどでもないが、かなり財布のヒモは固い。
少し古い言葉を借りれば「倹約家」という感じか。
とにかく、ハッサクが人に何かをおごるのは初めてのことだった。

「珍しいなハッサク、何かあったのか?」コユキが疑いの眼差しをむける。
「い・・・いや、まあ、日頃の疲れもあるし、な・・・」焦るハッサク。
「まさか、何か賭けやったんじゃ・・・」ギロリとコユキの目が光る。
「やってないやってない!お前のギャンブル嫌いはみんな知ってることだろ!」
「・・・ま、いいや、俺ももうちょっと買い物したいし、また後でここで会おう」
賭けをしていないことに安心したのか、コユキはビャッコを連れてまた市場へと姿を消した。
「あ・・・あぁ」

コユキの卵zは図星だった。
ハッサクはその前の試合に持ち金全額賭けるという幕唐ノ出て、ズバリ的中したのだ。
とはいっても、掛け率が多かったのでちょい上乗せ程度だったが、それでも3人泊まってもまだお釣りがくる。
(おごるなんて言わなきゃよかったかな・・・)
意外と小心なハッサクであった。

─夜─
この街唯一の「宿」に3人は今夜泊まることにした。
ガレージとシャッターもある、誰かが車を盗ろうとしても(ある程度は)大丈夫だ。
宿といっても、痛みの少ない廃屋を改造した程度のものである・・・が、それでも、柔らかなベッドと温かな食事は3人にとって何よりの贅沢であった。
「いただきます!」
軍の肉入りレーションを調理し、僅かに採れるジャガイモを加えただけの簡素なシチュー、それに焼きたてのパンと熱いコーヒーが夕食だった。
いつも野宿で缶詰ばかりの毎日だったため、たとえ簡素でも最高のごちそうに思えた。
「おいしいね、コユキ」口の周りをシチューだらけにしながらビャッコが微笑む。
「あぁ、ひさしぶりのあったかいメシだからな」くすっと笑みを浮かべるコユキ。

「温泉出てるところがあるからね、そこで疲れを取ってちょうだいな」
宿のマスターであろう気さくなおばちゃんが3人に語りかけた。
「だってさ・・・どうする、ハッサク?」コーヒーに甘ったるい合成ミルクを注ぎながらコユキが言った。
「お前先に入れ、俺はビャッコの面倒見るから」
と、ハッサクはビャッコの頭をぽんと叩いた。
「ハッサクがね、僕の銃の手入れしてくれるんだって!」ビャッコは昼に買ったデリンジャーをハッサクに渡す。
確かに口より手が早いハッサクだが、意外と面倒見はいい。
「ビャッコ・・・風呂どーする?」コユキは、ヘルメットからはみ出たビャッコの髪を見た。
・・・土ぼこりにまみれた上に、かなり油ぎっている。
「やだよ、お風呂入るの」ジロリとコユキをにらみつけた。
そう、ビャッコは無類の風呂嫌いだったのだ。
「ビャッコ、お前この前風呂入ったのいつだ?」とハッサク。
「そんなの知らない」
「もう2ヶ月は経つ・・・」コユキがコーヒーを一気に飲み干す。
と、突然、コユキはカップをガン!とテーブルに叩きつけた。
「臭うぞビャッコ!俺と一緒に風呂入れ!」
「やだ!」
「は!い!れ!」
「ぜ!った!い!や!だ!」
「ふう…」
頭を抱えながら、コユキが最後の願いとばかりにボャbとつぶやいた。
「…じゃ、ここで寝るときぐらいはそのヘルメットと靴脱いで寝ろ、何日間履いたままなんだ?」
「…絶対やだからね」

「やれやれ・・・」あきれ返るハッサクであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「で、このボタンをずらすと、銃身が上に上がるから・・・」
コユキが風呂に行っている間、ハッサクは簡単に銃の使い方を教えていた。
ビャッコは黙って熱心に聞いていた、それにいつもとは違う目つきだ。
デリンジャーは意外にも銃身に痛みも錆もなく、かなりの良品だった。
あとは埃とりとオイルをさせばちゃんと動作するだろう。
「・・・ねぇ、ハッサク」ランプの薄明かりの中、ビャッコが銃を分解中のハッサクに問い掛けた。
「ん?」
「あの大きな機械、乗れたら強くなれる?」
「大きな機械?」彼には意味が判らなかった。
「え・・・っと、今日あそこでやってたヤツ」窓を指差すビャッコ。
外には、あのコロッセオが星の明りに照らされていた。
「あぁ・・・MTのことか」ようやくハッサクは理解できた。
「えむてぃーっていうんだ・・・僕も乗りたいなぁ・・・」
少年の眼差しがコロッセオに向く。
「ビャッコ、MT乗りになんか普通の人じゃなれないぞ」ハッサクの口調が少し厳しく感じる。
「え?なんでさ??」
「俺たちじゃ何年働いたってMTなんか買えないし、万一乗れたにしたって外にゃ盗賊連中がいっぱいいる、バラして売るためにな」
「・・・・」
「軍人とか・・・お金持ちとか、そいつらの雇われにしかMTは乗れない」
ハッサクの視線が遠くなる。
「俺たちにゃ夢のまた夢の機械なんだ・・・ビャッコ」
「・・・・」
ビャッコは思い出していた、あのMT同士の戦いを。
鋼鉄のぶつかりあう音と、飛び散るオイル、巻き立つ土煙。
全てがビャッコの脳裏に深く刻み込まれていた。
そう、目を閉じれば、あの光景が今も浮かび上がってくる。それくらいに。





「えむてぃー乗り・・・かぁ」
posted by たか☆ひ狼 at 15:22| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワラビーV 3話

「老騎士」


砂埃舞う地平線の向こうから朝日が昇ろうとしていた。
ゆっくりと・・・ひび割れた大地を、岩山を、そして廃墟を照らそうとしている。
しかし、廃墟ばかりだと思われた一角に、もくもくと煙を出している工場らしき建物があった。

─ヴァグネルの工場─

さび付いた看板に書かれた文字。
恐らくMT専用であろうその大きなガレージに、一台の《それ》が降着形態で留まっていた。
体高3〜4m、ダークブラウンをメインに塗られたそのボディには、歴戦の証であろう傷跡がいたるところについていた。
「世話になったな・・・ヴァグネル」
MTの後ろから、初老の男が現われた。
サファリジャケットに身を包み、真っ白な髭をたくわえたその風貌は、年齢よりかなり年老いて見えた。
「もう行っちまうのか、エクター?」
エクターと名乗るその男の後ろから、もう一人の男が出てきた。
側頭部に若干の髪を残しただけの・・・恐らくエクターと同じくらいの年齢であろうその男。
油まみれの作業着に、右手には杖。
右足からこつこつと軽い金属音を響かせながら、エクターを追った。
「悪かったな・・・一晩、俺の愚痴に付き合ってもらって」エクターは、胸のポケットから煙草を取り出し、年代物であろうオイルライターで火をつけた。

朝もやに紫煙がふわりと浮かぶ。

「なぁに、最近お客がいなくなっちまって一人で寂しかったんだ、お前さんと一緒なら何日だって愚痴聞いてやるさ」
がははと笑いながらエクターの肩に手を置く。
しかし、その笑顔は何か寂しそうだ。

しばらく、見詰め合ったまま沈黙が続く。

「・・・こいつの後継ぎを探そうって思ったことは無いのか?」ヴァグネルが、エクターのものであろうそのMTを指差す。
エクターは気まずそうに首を左右に振った。
「・・・妻も息子も戦争で死んじまった・・・それに安心して心を許せるやつもおらんしな・・・お前以外は」
「そうか・・・俺さえこの身体じゃなけりゃ・・・な」
ヴァグネルは、ズボンの右足の裾をたくし上げた。
膝から下は、金属製の義足であった。
「・・・」エクターが、両手を握り締める。
「この2.3年で、かなり目も見えなくなってきた・・・それに、咄嗟の判断がかなり鈍ってきている・・・《騎士》失格だな」

─騎士─
MT乗りは、自分達のことをそう呼ぶ。
中世に流行した馬上槍試合に馳せ参じる若き騎士たちに、自分らの姿を照らし合わせているのだろう。
そう、鋼鉄の馬《MT》を駆り、颯爽と挑む姿に。

「だから・・・俺はお前以外には誰にも言わずに行こうと思うんだ・・・死に場所を探しにな」
「《老兵は死なず、ただ消え去るのみ》・・・ってどっかの一説、聞いたためしがあるが・・・」
エクターの肩に置いた手が、するりと落ちる。
「お前さんは老兵なんかじゃない、立派なMTを駆る騎士じゃないか!なのに何故、そんな・・・」
うつむくヴァグネルの目から涙が流れ落ちた。

「じゃあな、俺は行く・・・」
「エクター・・・」

老騎士は、MTに飛び乗った。
慣れた手つきで起動準備をする。
左側のモニターに写しされるこのMTの名。

─Kangaroo─

「・・・中身全部洗い出して再調整してやったぞ・・・この俺の最初で最後の大サービスだ」
「ヴァグネル・・・感謝するぞ」
前後に分割された上面ボディがゆっくりと閉まる。
キイィィィィィィィィィィン・・・機体のパワーが今まで以上にスムーズになっている。
「数年ぶりの大整備をされた気分はどうだ?カンガルー?」
コックピットの中で、エクターは物言わぬ計器に問い掛けた。

「よしよし・・・いい子だ・・・」
パワーメーターがMAXを振り切る、これが老騎士に対するMTの答えだった。
ゆっくりとアクセルを踏む。
ガシャン、一歩一歩ひび割れたコンクリートの上を踏みしめるカンガルー。
さよならは言わない、それがエクターに対するヴァグネルの答えだった。

「・・・信じてるぜ・・・エクター、またお前が元気に帰ってくることをな・・・」

カンガルーは、一歩ずつ朝日の向こうへと歩みを進めていった。
posted by たか☆ひ狼 at 15:22| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワラビーV 4話

「出会って驚いて」


─エクターの出発から数時間後─
組合へ戻るため、ハッサク達のジープは延々と岩山が続く荒野を猛スピードで走り抜けていた。
「あとどのくらい?」魔黷骼ヤに必死にしがみつきながらコユキがハッサクに尋ねる。
「このペースで行けば夕方には着くさ」ハッサクも同様にハンドルにしがみついていた、元よりシートベルトも付いていないボロ車だから。
「・・・・」
ビャッコは市場を出発して以来、遠く小さくなっていくコロッセオからじーっと目を離さずにいた。
何も話さず、寂しそうな目で。
「大丈夫だよビャッコ、あの街以外にだってMTがバトルしてるとこはいっぱいある、またどっかに寄った時に観に行こうぜ」
コユキがビャッコを慰めるように言った。
「ねぇ、コユキ・・・」朝からずっと無言だったビャッコがようやく口を開いた。
「ん?」
「僕がさ・・・僕がいつかお金いっぱいためて、えむてぃー買って乗れたらさ・・・」
「・・・・」
「コユキは僕を強いって思ってくれる?」
「え・・・?」コユキは返答に困った、昨日の銃のことといい、MTのことといい。
《強い》という言葉を何故か履き違えているようでいて、そうでもない。
ビャッコは真剣だったのだ。
だから、こっちも真剣に答えていいものか、それとも嘘も方便でやり過ごすか、どっちにするべきか。
「お前が仕事を一生懸命頑張ってくれるんだったら、俺もいつかは認めてやるよ、ビャッコは強いって」
「いつか・・・っていつ?」
「そりゃ分んねーよ、明日かもしれないし、ずっと後かもしれないし」
「そうなの・・・?」
「ま、今はちゃんとメシ食って大きくならなきゃダメだね、でなきゃお前みたいなチビ誰も相手にしねーって」

「チビ・・・?」突然、ビャッコの顔つきが変わる。
「バカ!禁句だぞコユキ!」
ビャッコに《チビ》と言うのは仲間達の間では禁句中の禁句である。
チビと言われるだけで、誰にだって突進してしまう癖があるのだ、ケンカはからっきし弱いのに。
「コユキ!僕のことチビって言った!チビって!」指定席であるジープの荷台からビャッコが駆け上がる。
「わわわ、今の撤回!悪ィビャッコ!」
「コユ…!」
ガン!ハッサクの肘鉄がビャッコのおでこにヒットした。
それと同時に、拳がコユキの頭をゴン!と叩く。
「痛ったぁ…」頭を押さえて痛がるコユキ。
「…喧嘩両成敗だ」ハッサクは前方を見据えながら、ぼそりと言った。
「たた…なんだそれ?喧嘩両生類って?」涙をちょっと浮かべながらコユキが問う。
「ちょっと違う…」
ビャッコはうめき声を出しながら荷台の陰でうずくまっていた。

その時!

ボンッ!前方の岩山の一つが吹き飛んだ。
「え!?」とっさの出来事に驚くコユキ。
「なんだ…一体?」ハッサクも掴めてないようだ。
直後、パラパラと土くれの雨が降る。
「雨…?」ようやく気付くビャッコ。
「う、上っ!」空を指差すコユキが驚きの顔を浮かべていた。
「!!!!!」

ジープの数m上を、黒い影が飛び過ぎようとしていた。
全てがスローモーションに見える刹那。
「飛行機?…まさか雨雲なワケねーし…」コユキが話したその瞬間!

ズンッ!地響きのあと、その「何か」がジープの後方に着地した。
着地の直後、マシンガンの軽い発射音がそいつから聞こえた。
パパパッ!パパッ!
「うわ!発砲した!」驚くコユキを尻目に、ハッサクは無言でハンドルを握り締めていた。
影から逃げようと必死なのだ。


「ん…ヤツじゃない、乗っているのは子供か?」
エクターは、正面モニターに映し出された映像に、一瞬目を疑った。
「だとしたら…ヤツは!」

今度はハッサク達のジープの正面に、別の大型ジープが飛び込んできた。
岩山だらけの影から飛び出てきたので全く卵zがつかない。
「うわ!」
「くっ!!」
必死にしがみつくコユキ、とっさの判断でハンドルをきるハッサク。
しかし…荷台にはビャッコの姿が無いのに全く二人は気付かなかった。



「くっ…痛ったぁ…」ジープの出現で急ハンドルをした際、ビャッコは荷台から振り落とされてしまっていた。
被っていたヘルメットのおかげでケガ一つ無くて済んだが、全身土ぼこりまみれである。
ガシャン…
ガシャン…
ビャッコの前に、数mの巨体が近づく。
その大きな足音に気付いた瞬間、ビャッコの瞳の輝きが…変わった。
「え…」
埃混じりの生唾をごくりと飲み込む。
「…えむてぃー…」


「…大丈夫か?」
エクターのカンガルーは、ビャッコの前にしゃがみこみ、左手をそっと出した。
「さぁ…こっちへ来るんだ」




「えむてぃー…だ…」
ビャッコは、叩かれた痛みも、振り落とされたショックも、全て忘れてしまっていた。
そう、目の前に、憧れのMTが。
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「HGの追跡」


その頃、HGの下っ端・・・モズは焦っていた。
「くっそぉ、メシ買出しに来ててMTに出くわしたはいいけどなぁ・・・こんな岩山ばっかじゃ」

HG・・・《ハンティング・ギア》それは盗賊団の通称である。
軍も警察も治安も無いこの世の中、時には村を襲い、また時には輸送団を襲って食料やらパーツやらを奪い取るのだ。
もちろん、MTも例外ではない。
HG達にとっては、MTはお宝の固まりだから。
バラして売り飛ばせば、数ヶ月は遊んで暮らせるだろう・・・それくらいMTのパーツは希少性の高いメカなのだ。

「おかしらンとこ戻ってみんな連れてくるか・・・俺だけで仕留めるか・・・」
仲間を呼べばそれだけ有利だが、分け前はそこそこ。
自分だけで仕留められれば、仲間のとこは戻らずにそのまま一人で一儲け。
モズは、かたわらに置いてあるマシンガンを手に取った。
マガジンには弾丸はフル装填されている。

「よぉっしゃ!オレだけでやってやる!」
モズはアクセルを思い切り踏み込み、MTのものであろう巨大な足跡を追った。

「(しかし・・・途中でぶつかりそうになったガキ連中が気になるが・・・ま、いいか、邪魔したら殺っちまえば済むことだし)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「大きいなぁ・・・」
ビャッコの身長にしてみたら、数mのMTはまさに巨人そのものだ。
その巨人が・・・今まさにビャッコを捕らえんと手を伸ばしている。
「大丈夫、別におまえさんを食っちまおうって訳じゃない・・・」
MTカンガルーの口部分から、運転手であろう老人の声が聞こえてきた。
「え・・・?」ビャッコは戸惑った。
急いでハッサクの車に戻りたいのに、ここで捕まえられちゃったらどうしよう、と。
「ぼくを・・・捕まえちゃうの?」戸惑いながら巨人に尋ねるビャッコ。
「へ?」逆にエクターも迷う。

突然、ビャッコの背後の大きな岩の陰から、大型ジープが土煙を舞わせながら突っ込んできた。
「見ぃつけたぁ!!!!」思わず叫ぶモズ。
「いかん!」カンガルーの左手はビャッコを掴んだ。
「ひゃわっ!」大きな手に掴まれ、ビャッコも思わず叫んでしまう。

ぐぅんと周りの景色が高くなる。
「しっかりつかまってるんだぞ!」エクターはそうビャッコに言うと、大きく後ろにステップをかけた。
「!!!」必死に指につかまるビャッコ。
バン!
後ろにジャンプするカンガルー。
すぐさま空中でボディを180度反転させ、後部スラスターを軽くふかす。
舞い上がる砂煙!
「ぐは!ぺっぺっ!」モズは砂をもろに被った。
もちろん、砂煙は目くらましの役割も兼ねていた、瞬く間にカンガルーはモズの視界から消えうせていたのだ。
「ンなろぉ!俺様をなめんじゃねぇぞ!」砂まみれになりながらもさらにアクセルを踏み込む。
今までに奪い取った部品でかなりのチューンを施してある特注のジープだ、MTに負けるわけがない。
それに、着地時にはそれなりの音がするはず。
モズの耳に、岩が崩れるような・・・ボスッともゴロッとも似たような音が聞こえた。
「(けっ・・・俺の長年のカンからは逃れられないんだよ!)」
ジャコン!マシンガンのボルトを勢いよく下げた、臨戦態勢だ。

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「手のひらのなかで」


延々と立ち並ぶ岩山の一本道を、MT=カンガルーは軽いスキップで走り抜けていた。
むやみにジャンプで飛んでしまっては追っ手に見つかる、それにかなり砂漠慣れしているだろうハンドル捌き。
そして・・・
エクターは、左モニターをちらりと見た。
カンガルーの左手の中には、さっき助け出した子供。
「さて・・・どうしたものか・・・」短くため息をつく。


─動いている
─大きくジャンプして、クルッと回って、そこから跳ねる様に・・・
ビャッコは必死に頭の中で出来事を反芻していた。
でも、その考えはたちまち「嬉しさ」にとって変わってしまう。
─憧れのMT。
─夢にまで見たMT。
─そのMTに、僕は捕まえられているんだ。

でも、どうしよう。
「どこ行くんだろう・・・」ビャッコはふと心配になった。
MTの指の隙間から出ている風からいって、かなりの速度だ。
「よっ・・・と」
ビャッコは、MTのドライバーに話し掛けようと、握られている指をこじ開けようと、手をかけた。
「あ・・・れ?」
何だろう、この触感。
他の手のひらの部分も触ってみた。

柔らかい。

防塵と、柔軟性を高めるために、カンガルーの手はラバー製の、特殊な「手袋」をはめているのだ。
「うわ、面白い」
ビャッコは面白くなって、あちこちをぷにぷにと突付きはじめた。
「先っちょ・・・色も柔らかさも違う・・・」
正確に言えば指の腹の部分、動物で言えば「肉球」にあたる部分は、さらに弾力性があった。
色も他の部分よりか濃く、黒に近い。

そして・・・
「3.4・・・やっぱ足りない・・・」
指の本数も違っていた。
カンガルーのマニピュレーターの指の本数は4本だったのだ。
人間の本数と違うが、一本一本がかなり太く、力が込めやすい。

「違うんだなぁ・・・えむてぃーって」
ビャッコが感心していたその瞬間!

パパパン!パパン!
チュンチュン!キィン!

乾いた破裂音の後、カンガルーのボディから何かが爆ぜる音が。
ビャッコは音の出場所を確かめるべく、今度は上方・・・いわゆる親指側─をこじ開けようとした。
渾身の力で、ようやく頭が出る程度のスペースが空けられた。
頭をひょいと出す。
10mくらい後方に、ジープが走っているのが見えた。
しかし、あれはハッサクのとは違う。

「顔を出すな!」突然、MTの方から声が聞こえた。
さっきのカンガルーのドライバーの声だ。
「え?」

パパパッ!
またあの音。

ビャッコの頭上に何かが覆い被さった。
「うわ!」突然ビャッコの前が真っ暗になる。

「なに・・・一体?」
少年には、この危険性が全く理解できなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「くっそぉ!」モズは歯噛みした。
弾が当たることは当たるのだが、いかんせん鋼鉄のボディ、全てはじき返される始末だ。
「・・・この弾丸、俺の有り金全部はたいて買ったんだぞ!!オラァ!」

そう、この時代、銃は有り余っているが、肝心の「火薬」が希少なため、弾丸一発の価値が銃より高いこともありえる・・・そんな時代なのだ。

「こうなったら・・・もっと接近して!」モズはシフトレバーの先端にある小さな赤いスイッチを入れた。
スーパーチャージャーだ。
キイィィィィィィィィィィ・・・・・ン!
エンジンの回転音が上がり、たちまちメーターが振り切れる。
「近づいて間接部分でも当てりゃ・・・墜ちる!」
アクセルを踏みつつ、モズはマシンガンのマガジンを抜いて残弾を確かめる。

「あと一連射か・・・」


その鋭いエンジン音をエクターは聞き逃さなかった。
「勝負に出たか・・・!」

眼前に大きな岩山が迫ってきた・・・ゆうに30mはあるだろう。
「これで行き止まりか・・・よし!」
エクターはジャンプレバーを入れた。
カシャン!背部に相当する部分からスラスターが顔を出す。
ボフッ!
瞬間、勢い良く火を吹いたスラスター。
鼻面を斜め上方に向け、カンガルーはジャンプした。

「ンなろ!飛んで逃げる気か!」
距離約10m、空中のMTに向けてモズのマシンガンが火を噴く。
パパパパパッ!


「!」
空中でのカンガルーの体勢が崩れた!


ガクン!
ふわっとした感覚の後、何かにぶつかったかのような衝撃をビャッコは感じた。

落ちる!
さっきみたいな「柔らかい」飛び方じゃなく、何かにぶつけられたような、そんな感触。
落ちる感覚に意識が遠のく中、慌てて指にしがみつく。
「わ・・・ああああああっ!!」




カンガルーは・・・墜落した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「運命の出会い、そして血」


「う・・・」
暗闇の中で、ビャッコは目覚めた。
(確か、頭の上が真っ暗になって、飛んで、落ちて・・・)
朦朧とした意識の中、必死に今までのことを思い出す。
「そうだ・・・落ちちゃったんだ、たしか・・・」
そのままじっと待った・・・が、「MT」は身動き一つしない。
ビャッコはあたりを見回す。
「出よう・・・かな」
先ほど閉められていた「天井」がわずかに開いていた。
強引に持ち上げた。
ググッ・・・キィィ
やっとのことで天井が持ち上がった。
頭を出す。
砂混じりの風がビャッコの顔めがけて吹く、だけど・・・心地いい。

指の段差を足がかりに、ビャッコはようやく抜け出せた。
そして、今まで「天井」だと思っていたものは、MTの・・・右手だった。
「そうだ、えむてぃーの人!」
砂塵がようやく止み、倒れていたMTの全身が姿を現した。

卵を横にしたようなボディが前傾姿勢になっている。
「あご」の部分が地面に着くギリギリの位置で止まっていた、あともう少しでボディもスクラップになるところだったろう。
そして後部からは白煙がうっすらと上がっていた。
どこかに被弾したのだろうか・・・

「中にのってる人・・・いるの?」
ビャッコが物言わぬMTに語りかけた瞬間、ボディから蒸気が上がった。

プシュゥゥゥゥゥ・・・
上部の1/2くらいのところがスライドし、コクピットと思える機械類が蒸気とともに見えた。
「!」
ビャッコは本箔Iに、上着に入っていた銃を確かめた。
昨日の夜、弾丸を入れた状態でポケットに入れていたのだ。

・・・ある。

用心をしたが、中のパイロットは一向に現われない。
「・・・いるのかな・・・」
待ち受けているのか、それともいないのか、さまざまな思いがビャッコの頭の中を巡る。

「よし!」
ビャッコは、腕の関節部分の節に足をかけ、コクピットへと上っていった。
岩登りでも木登りでもビャッコは得意だ。
それにMTの高さは3m余り、それほど高くないし、関節部分には出っ張りがいっぱいある。

肘部分まで上った時、ビャッコは妙な感触に気付いた。
右足のところ・・・靴がなかった。
「あれ・・・?」ようやく右足だけ裸足だったことに気付く。
「どっかで脱げちゃったかな・・・ま、いいか」

難なく、ボディへと上ることが出来た。
奥底から立ち上る熱気、そしてちょっと汗くさい。
中に人がいる証拠だ。
ポケットの銃を猛一度確認し、ビャッコは思い切って中を覗き込んだ。
「誰か・・・いるの?」
覗き込んだ瞬間、ビャッコはびくっとなった。

そこには、初老の男性が乗っていた。
気絶しているようだ、目は閉じている。
そして、腹部には・・・大量の血が。
押さえている手の間から、今もどくどくと流れていた。
脂汗が額に浮かんでいる、息も荒い。

「!!!」
熱気が血なまぐさく染まってきた。
一瞬、吐き気がこみ上げる。
遠くなる気をこらえながら、ビャッコは話し掛けた。

「あ・・・ねぇ・・・起き・・・て」
温もりの残る男のジャケットの肩に手を伸ばし、ビャッコは揺さぶった。
「起きて・・・ねぇ、起きて・・・よ・・・」
しかし目覚めない、ビャッコはさらに揺さぶりをかけた。

「起きて・・・よ、おじさん!」
posted by たか☆ひ狼 at 15:21| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワラビーV 5話

「30分前」


「・・・・・・・」
「・・・・・」
かなり長い時間が経っているような感じがする。
狭いジープの中、お互い目も合わそうともせず、口を開こうともせず。
そのうち・・・隣の席にいた少女が、かつかつかつとブーツの踵を小刻みに鳴らし始めた。

イライラが頂点に達してきた証拠だ。
「やめろって・・・それ」
「え・・・!?あぁ・・・」
不意のハッサクの一言に、一瞬ビクッとなる。

ビャッコの姿・・・いや、あの謎のMTの姿を追い続けてかなり経ってはいるのだが、いかんせん速すぎる。
頼りになるのは、砂地に深く沈むように刻み込まれた大きな<そいつ>の足跡。
だけど、時折ふきつける突風が・・・何事も無かったかのように痕跡を無に返してしまう。

あと、残されたのは・・・
「止めろ!」
コユキの突然の一声に今度はハッサクが驚く。
慌ててブレーキを力いっぱい踏みしめ、半分スピンしつつ止まる。
「どうしたんだ・・・一体?」
「いま・・・あったんだよ!ビャッコが!」

戸惑うハッサク。
─ビャッコが<ある>って一体どういう?
その疑問は、コユキが手にしたものでようやく氷解した。

「これ、間違いない・・・あいつンだ」
砂地から掘り出したそいつを、ハッサクにポイと投げ渡す。
「あ・・・」

それは、ビャッコの履いていたブーツだった。
先端が口のように開いているのが何よりの証。
何回もヒモで締め付けてはいるのだが、いかんせん歩くたびにすぐに擦り切れて、その都度パクパクと独特の足音がする。
それに何より、大人サイズのブーツなので、すぐ脱げる。

「捕まったとき・・・脱げ落ちたか」
ハッサクがブーツに溜まった砂を振り落としながら言った。
「だろうな・・・」

無言のまま2人はジープに乗り込み、また痕跡を探しに走った。

もうすぐ日が暮れる・・・
暮れたが最後、今度は野盗連中が跋扈する闇の時間。
こんな開けっぴろげな所を走っていたら、間違いなく襲われる・・・時間の問題だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なぁ・・・ハッサク?」
「ん、何だ?」
注意深く低速を維持しながら運転しているハッサクに、車から身を乗り出して観察しているコユキが語りかけた。

「・・・何であいつをチームに入れたんだ?」

元はといえば、ハッサクとコユキは2人のチームだった。
ところが、ある日。
「報酬の8割をやるからさ、この子を仲間に入れてやってくれ・・・ってね」
「ボスババが言ったのか?それともウィートの奴?」
「・・・ババだ・・・」
コユキはババの名前を聞くなり、急にムッと頬を膨らませた。
「ボスババは甘ぇんだよ!ビャッコに!」
「まぁな、でもしょうがないだろ」

横目でチラッとハッサクを見る。
・・・何故か、笑っていた。

「・・・なに笑ってンだよハッサク」
「え、いや・・・なんつーか・・・その」
「言いなよ、でなきゃこれでコンビ解消すっぞ!」

空腹のせいなのかどうかは判らないが、何か妙に腹が立った。
「俺たちさ・・・なんかビャッコの保護者・・・!!」

瞬間。
その音をハッサクの耳は聞き逃さなかった。

パパパパパッ!
軽い破裂音・・・間違いなく銃声!

「あの盗賊野郎が!?」
「黙ってろ!」コユキの動揺を一声で制す。

「どこだ・・・」
ジープを止め、聞き入るハッサク。
・・・・・・
・・・・
・・
ズン!
軽い地響き。
「落ちた・・・あのMTが落ちた!」
ギアを瞬時に叩き込み、車は砂塵を上げて急発進をする。
「場所わかるのかよ!それに・・・」
口に飛び込んだ砂をぺっぺっと吐きながらコユキが叫んだ。
ハッサクはいつもの寡黙モードに戻っていた。


「武器持ってないぜ・・・俺たち」

その言葉は、瞬時に風の音にかき消されてしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「動揺、混乱」


「おじさん・・・起きてよねぇ、起きてってば!」
懸命に肩をゆする、声をかける。
だが、腹部に大きくできた血の染みは、無情にも大きく広がっていくばかりだった。

長い時が過ぎていったように感じた・・・
「ぅ・・・」
「!!!」
腹を押さえていた指がピクッと動く。
「おじさん!」
同時に、ほとんど聞こえなかった息づかいも、少しずつ・・・少しずつ。
「おじさん!ぼくほらこのえむてぃーにずっとつかまれてておちてとばされてのぼったら・・・!」
自分でも何を言いたいのか判らないほどに、ビャッコは体中に蓄積していた思いをぶわっと老人に叩きつける。

苦痛にゆがんでいた彼の顔が、ちょっとだけ緩んだ。
「お前さん・・・ケガは無かったか?」
「え・・・」

「・・・と、ね」

「靴片方どっかいっちゃった・・・けど平気!」

その言葉に、老人も少しだけ安心したようだ。
ため息に近いような、安堵の息が口の端っこから少しだけ漏れた。
そして、血に染まっていない左の腕を、ビャッコの肩に伸ばす。
ビャッコもそれに応えるように、両手でハッチ越しにぐいっと掴んだ。
「立て・・・る?」

渾身の力を振り絞ってようやくシートから身体を起こし、そのままビャッコのいる・・・外へ。
「おじさ・・・落ちちゃう!」
ビャッコは爪先でMTの肩関節の縁にどうにか立っているだけだった。
しかもこのMTは倒れている状態とはいえ・・・地面まで3.4mはゆうにある。
「そ・・・こに伸びているレバーを・・・手前に引っ張りあげてくれないか・・・」
「え?レバー・・・?」
引っ張りあげた老人の腰のあたりに、何やらひときわ長いレバーがあった。
「ちょうど・・・それが搭乗の・・・にあたる」
「うん、え・・・っと」
老人の言っている意味の半分もわからないまま、ビャッコはそのレバーを引っ張った。
かなり固めだ。
ガ・・・ギィ・・・!

動かした直後、ビャッコが立っていた左腕が動き出した。
「ひゃあわ!」思わずコクピットに飛び込む。

左腕は、一定のカクカクした動きを経て・・・止まった。
あのラバー仕立ての手のひらが上に向けた状態に、コクピットすれすれに。
「・・・ら?」
「・・・驚いたかい」
未だにビャッコはそのアクションを理解できなかった。
「さぁ・・・それに乗って・・・下へ降りよう」
「え・・・あ、うん」
老人が、そしてビャッコが手のひらの上に乗っかると、老人はさっきのレバーを元に戻した。
ギッ、ウィー・・・ーン
滑らかな動作音とともに、MTの手のひらは─魔法の絨毯の如く─地面へ降り立った。
「うわ、すごい!」上と手のひらを交互にせわしなく見ながら驚嘆するビャッコ。

MTに直に触れられた思い。
ちょっとだけ、ぼくえむてぃー動かしたんだよ!って思い。
そして・・・乗っている中の人に会えた、その思い。

だが同時に、ビャッコの思考が現実へと戻された。
右足・・・靴の脱げた足の裏に、妙な生ぬるい感触が。
「!!!」

血溜りが、MTの手のひらの上で小さな池になりつつあった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「言葉と危険」


老人の腹部の血溜が、胸へと広がっていた。
「ライフルの弾・・・が、どうや・・・ら吸気口に入って・・・魔黷ワわっ・・・」
だがいきなりそんなことを言われても、ビャッコには皆目分からない。
「お医者・・・どうしよ、車ないし・・・」
少年は大量の血を前に、錯乱気味だった。
老人の震える指が、MTを指す。
「あいつの・・・おなかのポケ・・・ット、に・・・そこに」
「おなかのポケット?」
老人は軽くうなずくと、言葉を続けた。
「下ろすんだ・・・ポケットが開くから、救急のキットが・・・ある」

ビャッコはMT=カンガルーを見上げた。
確かに・・・卵形の胴体の下部=いわゆる腹部=に、一段盛り上がった箇所がある。
「ポケット・・・あれだね!」
ビャッコはダッシュすると、半ば倒れ掛かったカンガルーの腹部スリットの手をかけ、グッと思い切り引っ張る。
「あ・・・れ?」
砂を噛んでいるためか、なかなか動いてくれない。
「よっ・・・ぐっ!・・・くぅ」
足を引っ掛けて渾身の力で引っ張るが、いかんせん子供の力ではどうにもならない・・・様に思えたが。

ゴッ!・・・ガラララララッ!

砂がこぼれ落ち、同時にコンテナも勢いよく抜け出た。
ドサドサと落ちる荷物。
そのほとんどは工具類だ、生活に使うようなものはほとんど無い。

しかしそんなことには目もくれず、ビャッコは一心不乱にキットを探していた。
「えっと・・・確か」
「ぉぃ・・・」
がしゃがしゃがしゃ

「救急箱って、庶嘯フしるし・・・だったっけ」
「おい!」
ばらばらばら

「ないよ・・・どこにもないよ!」
がらんがらんがらん!
「聞いてんのか!オラァ!」

背後から怒鳴り声が聞こえたと同時に、ビャッコの右の頬に冷たいものがぴとっと触れた。
「え・・・」
「振り向くんじゃねェぞ・・・これが何だか分かるよな、あン?」

冷たいもの・・・それは、ナイフの刃先だった。
普通、日常的に使っているナイフよりも格段に長い。
そう、これはあくまで「戦うため」のナイフだ。
そのナイフの腹で、ビャッコの頬を軽くぺしぺしと叩く。
「・・・・・・」
「驚いたな・・・まさか、MT乗りが子連れだったとはな」

あのHGの下っ端、モズの声だった。
岩陰に隠れていたのであろう、全く気づかなかった。

「さて・・・お前の親父さんのところへ戻ってもらおうか?」
「お・・・やじ?」
「安心しろ、別に殺す気は無い、ただ・・・」
「ただ・・・?」
左手でビャッコの身体を抱え上げる。
「いっ・・・!」

「このMTを俺様にくれればそれで・・・いいんだ」
背後の声・・・モズはあざ笑うかのように語尾を上げて言った。
「!!!!」

ようやく分かった。
こいつは・・・
こいつは・・・さっき撃ってきた、あの!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ほらよおっさん!息子連れてきたぜ!」
モズは、ぽいと老人の前にビャッコを放り落とした。
「き・・・貴様・・・なんてことを!」
老人=エクターは、絞り出すように盗賊に吐き捨てた。
「悪く思うんじゃねえぜ、こっちもこういうのが仕事なんでね」
「くっ・・・」

モズは、ナイフの刃先をもてあそびながら、エクターに告げた。
「俺のほうも運が悪いんだぜ、何せこいつが落ちたのに気ィ取られて、乗ってた車を岩にぶつけちまったんだし」
「自業・・・自得というもんだろう・・・」
「ま、ケガの功名っていうのかな?おかげでこんなステキなMTがタダで手に入っちゃうんだし、それ考えると俺様って凄い幸運なのかも」
MTを前にして有頂天になってきたのか、ペラペラ上機嫌にしゃべりだす。
「と、いうことでだ、あっちの事故った車をやるからさ、こいつは俺様が使わせてもらう、それでいいだろ?」
「・・・・・・・」
「おっちゃんのそのケガじゃ近くの町につけるかどうかも判んないけどな、ヒャハハハ!」
「くっ・・・」
言うや否や、モズはひょいひょいとカンガルーの下ろした腕を登り始めた。


コクピットに着いたモズを見上げ、エクターは一人つぶやいた。
「これも・・・ひとつの運命なのかもしれん・・・ただ」
「おじさん・・・」
悲しい目で見上げるビャッコを、血に汚れていない腕でそっと抱いた。

「どうしてやればいいんだ・・・私はいい、けども・・・この子は・・・」

突然、ビャッコ達の側に、上着のようなものが降ってきた。
「あ、すっげー血だらけだったから拭いといてやったから、それやる」
真っ赤に汚れている、モズが脱ぎ捨てたものだった。


「さて・・・と」
モズは手のひらについた汗をズボンで拭きつつ、ぐるりと周りを見渡した。
「・・・・・・・」
伸びた2本のレバーと無数の計器類とスイッチ群。
車は毎日のように運転しているが、いかんせんそれとはモノがかなり違う。
「どうやって・・・動かしゃいいんだ。これ?」
見回したはいいが、起動させるべきスイッチは見当たらない。
おまけに計器も一切沈黙したままだ、何から手をつけていいのか皆目見当がつかない。
「はぁ・・・聞いてみっか、あのジジイに・・・」
シートから身体を起こし、モズは下にいるエクターに話し掛けた。

「おい!おっさん!」
「・・・・・」
「聞こえてるんだろ、おい、ジジイ!」
エクターとビャッコは黙ったまま、モズを睨みつけていた。

「動かし方わかんねぇんだよ!教えろ!」
「・・・勝手に・・・・そこいら辺を動かせばいいだろ・・・」
その一言にモズはカチンときた。
「ンだとぉ!てめぇ俺様がおとなしくしてりゃ!」
モズは今度はビャッコに焦点を向けた。

「おい!お前だったら知ってるだろ!」
不意に向けられた言葉にビクッとなる。
「え・・・ぼく?」
「このジジイのチビなんだろ、知らないわけねーよな!だろ?」

カチン!
ビャッコの心にスイッチが入った。

「おいチビ!さっさと動かし方教え・・・」
「いま・・・」

「ろ・・・」

「チビって・・・チビって言ったな!!!」

「ら・・・」

いつ出したか分からなかった、それぐらい速かった。
いや、むしろ<瞬きしている刹那に抜いた>と言った方が正しいかも知れない。

ビャッコの小さな手には、あの・・・デリンジャーがしっかりと握られていた。
そのかすかに震える手は、しっかりとMTにいるモズの身体に向けられていた。

「チビって・・・チビって言ったな!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「受難・災難」


<あー・・・アレ見たことあるな・・・確か・・・何てったっけ?>
「チビって・・・チビって言ったな!!!」
<えっと、デリンジャーだったっけかな?あのちっこい銃>
「チビって・・・チビって言ったな!」

「ら・・・?」
<えっと・・・何であんなチビがこんな銃持ってる・・・・・・・・・の?>

モズは目を凝らした、そいつの持ってる銃の先・・・銃口を。
「・・・・・・」
やっぱり、奥の奥に・・・てらっと鈍色に光るアレがあった。

そう、弾丸。
<あーこいつはおもちゃじゃねーなしかしなんでこいつがこんな銃っていうかこれはさっき思ったな>
モズの脳は、死ぬ直前の走馬灯の如く、光の速さ並みに考えを紡ぐ。
<逃げようと思ってもここは地上から数mの高さだからちょっとキツいしこいつ動かして逃げようかと思ったけど動かせられないしあぁ〜!!!>

ビャッコはモズを射るが如く、ピタリと銃を向けていた。
もはや他には何も見えていない。

「な・・・なぁ、銃は危険だぞ・・・下げろって」
モズの矛盾した言葉は答えになっていなかった。

深呼吸の後、もう一度言葉をかける。

「お・・・い、そんな物騒なモン持ってちゃ危険だぞ・・・・・・・・・チビ」
「チビって言ったな!!!!!!!」
ビャッコの人差し指がグイッと握りこまれた。

・・・・・・パチッ

「ひぇぁあ!」

乾いた金属音がゆるく響き、同時にモズの裏声な叫びが上がる。
・・・が、

「・・・れ?」
弾丸は入っている、ハンマーは倒した、トリガーも引いた。
「あ・・・?」
だけど・・・一向に弾丸は。
「で・・・ない・・・?」

ビャッコの混乱している脳内がさらに輪をかけて混乱する。
その震える手でもう一度握りなおし、そして・・・
「たま・・・」

銃口を覗く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
─その10数分前─
「・・・あった!」
あの音を辿って小一時間、ようやくコユキ等は見つけた。
そう、あのHG野郎が乗っていたであろうジープ。

「こいつも事故ったみたいだな・・・」ハッサクが久々に口を開いた。
前部がかなり潰れており、ラジエーターの水が漏れ出している。
乾いた地面の染み出し具合からして、まだそれほど時間は経ってはいないだろう。
しかし・・・
「こうも岩山ばかりだとな・・・こりゃ見つけるのに難儀だ・・・?」
ハッサクのぼやきを尻目に、コユキは一人手ごろな岩山に腰掛け、何やら鼻をヒクヒクさせている。

「何やってんだお前?」
岩山といっても2m程度の小さなものだ、上ったところで見渡せるわけが無い。
「あ・・・いや、ちょっと臭うんだ・・・よね」
「臭うって・・・油?それとも火薬か?」
「ビャッコの臭い」
「え???」
コユキは岩山の天辺にすいっと立ち上がる。
「風に乗って流れてきたんだ・・・あいつの臭いがな」

思わずハッサクはぷっと吹き出した。
「何だよ・・・いきなり?」
「いや・・・なんつーか、こういうときは物凄く便利だな、ビャッコの風呂嫌いって」
「・・・だろ?」

つかの間の笑い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ビャッコの臭いを辿って10数分、ちょっと小高い岩陰の向こうにMTがいた。
やっぱり思ったとおり・・・だった・・・が。

「なンだ・・・一体全体どーなってるんだ?」
「・・・・・・・・・」

つんのめり状態のMTの上にHG野郎が。
そのずっと下には、銃をかまえているビャッコ。
その背後には・・・胸と腹を血に染めた老人。

「まさかあいつ・・・昨日買ったあの銃で・・・!」

その瞬間!
・・・・・・パチッ

「ひぇぁあ!」

「・・・いッ!!!」とっさに耳をふさぐコユキ。

・・・だが、銃声は聞こえない。
「ハッサク・・・あいつ、弾丸入れたか?」
「あぁ・・・あいつ・・・車に乗ってる最中・・・弾丸込めてたの見た・・・」
ハッサクの喉がごくりと鳴る。
「じゃ・・・不発!」


銃口を覗くビャッコ。
・・・やばい!

とっさに岩陰から飛び出、駆け出す。
「コユ・・・!!」

不発・・・不発なんだったら別にかまわない。
だけど、それ以外に要素がもう一つある・・・

・・・遅発!

やってはいけないこと。
絶対にやっちゃいけないこと。



「ビャッ!コオォォォォォォォッ!!!!!!」

一直線に突っ走るコユキ。

そして。



・・・パンッ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「夜と沈黙」


「ビャッ!コオォォォォォォォッ!!!!!!」

一直線に突っ走るコユキ。

銃口を覗く目をふとそらす。
「あ、コユキ・・・」

その瞬間をねらってダイブ!

ビャッコに飛びつく。
右手はビャッコの顔から銃を引きはがすように。
左手は銃口を正面に戻すために。

「え・・・・・・」
ビャッコの足が宙に浮く。


・・・パンッ
軽い破裂音が。

・・・ドサッ・・・
続いて、2人の落ちる音が。

もうもうと立ち上る土煙・・・
「くっ・・・」
「コユ・・・キ?」ふと、引き離された右手を見る

その先には薄く立ち上る硝煙が。
そして、そのもっと先には・・・モズが。

「あ・・・ぁぁあわ・・・ひぃ・・・」
彼の下半身がガタガタ震えているのが、ここからでもよく見える。
「あ・・・当たっ、た・・・」
股間の真ん中より下のほう、小さな穴が一つ。
幸いにも服のたるんだ部分を貫通したため、自身にケガは無かったようだが・・・
いかんせん精神的ダメージは大きかったようである。

その証拠に・・・
じょわ〜っと、股間の火事を消すが如く、ズボンの周りに水の染みが出来つつあった。
「うた・・・れ、ちゃ、った・・・あぁ〜」
クラリと前のめりに倒れる・・・

そしてもう一つ、土煙が上がった。
・・・ドスッ

今度はかなり重い。


「あいつ・・・!!!」
「!」
コユキは、ビャッコの固まった指からからデリンジャーをはがし取ると、正面の煙に向かってまたダッシュをした。
「コユキ・・・ぼくの銃!」

土ぼこりにまみれげほげほむせているモズの前に、さっきとは違う人影。
「ゲホッ!・・・誰・・・だ?」土まみれの口からようやく言葉を絞り出す。

「・・・・・・」
コユキは、両手でぴったりとモズに向かってかまえていた。
ビャッコのような半端な持ち方じゃない、右手の人差し指はぴったりと短い銃身に添えて、中指をトリガーにかけている。

「今度・・・は一体何だよォ!!」腰が抜けたまま後ずさりするモズ。

「俺だったら外さねぇ・・・」その眼光はぴたりとモズを見据える。
「なな・・・!」
モズには、もはや先ほどまでの威勢は消えうせていた。

「俺が撃たないうちに・・・とっととこっから消えうせろ!」
「わ・・・った・・・」
気の抜けた骸骨のように力なく首を縦に振るモズ。

ふらふらと立ち上がり・・・後ずさりしながら、また転んで尻餅をつきながら・・・
そして最後に負け惜しみの一言。
「お・・・おぼ、覚えてろ!仲間全員と親分呼んで、お、おま、お前らなんか全員ダメにしてやるからな!」
「・・・・・・・」コユキはそれに応えず、ただぴったりとモズに向けて銃をかまえていた。
「こ・・・このMT、絶対に俺らのモノにしてやる!」
「撃つぞ!」
その言葉に怖気づいたモズは。今度は一目散に岩山から飛び去って・・・消えた。


「ふぅ・・・」いなくなったモズを見届けると、力なくその場にぺたりと座り込んだ。

「コユキ!」
「コユキぃ!!」
ビャッコとハッサクが駆け寄った直後・・・

ブォン・・・ブオォォォォォォ・・・・
「あ・・・あの音・・・!」最初に気づいたのはビャッコ。
岩山の向こうに止めてあったハッサクのジープが走り出した。
「あれ・・・俺らの車だよ・・・な?」
コユキの言葉は耳に入らず、ハッサクはただポカンと走り去るジープを眺めていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
─夜─

「・・・で、ビャッコはこのオヤジに助けられた・・・ってワケなんだな?」
「あぁ、だから・・・一応命の恩人ってことだし・・・ね」
幸いにも、モズの車には色々生活用品が積んであったので、夕食には困らなかった。
「ただな・・・かなり出血がひどい・・・このままじゃ朝まで・・・」
カンガルーから少し離れたところの岩陰にシートを敷き、エクターを手当てしていた。
しかし、MTに積んであった医療品も必要最低限のものばかりだった、包帯と消毒薬程度のものしかない。
「俺のジープ盗られたのは痛い・・・」
「それに・・・」コユキが続く。
「それに・・・なんだ?」
深いため息の後、コユキは言葉を紡いだ。
「奴ら、この調子だと明け方までにアレ、狙ってくるぜ」
くいと親指をMTに向ける。
「・・・・・」押し黙るハッサク。

下に散らばっていた食料を集め、コユキはすっと立ち上がる。
「ビャッコに・・・メシやってくる」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月の光が、今日だけは特別に明るく見える。
星の光も手伝って、なんだかとってもよく見える・・・

ビャッコは、MTカンガルーの正面に、一人ひざを抱えて座り込んでいた。
ハッサクがあの老人を手当てしている最中から、ずっとだった。
あのおじさんに何か話そうにも、全然目を開いてくれない。
居心地の悪さだけがビャッコを包む。
だから・・・

「おい、ビャッコ」
後ろから声が・・・コユキだ。
「あ・・・」
「夕食、これな」
ビャッコの小さな手に一つ一つ手渡す。
小さなコンビーフ、クラッカー、そして水の入った缶と。
「悪いな・・・火が無いからこういうモンしか残ってないんだ」
「ううん・・・これ大好きだから」ビャッコはコンビーフを目にしてにっと微笑む。久々の笑顔。
「それと・・・」
コユキは、何かの固まりをビャッコの鼻先にぼふっと叩きつける。
「ぶは!何これ?」
「何これじゃねぇだろ、お前全然気づかなかったのかよ?」
「あ・・・」
それは・・・無くしたとばかり思っていた、ビャッコの靴だった。
顔を真っ赤にしながら、いそいそとブーツを履く。

それを目に、コユキも少しだけ微笑む。

「ねぇ・・・コユキ」
「ん?」
「このえむてぃーって、ごはん食べるのかな?」
「・・・え???」

コユキは困惑した、突然の質問に。
けど・・・やっぱり答えられなかった。

なんか答えたら、こいつに悪そうな気がしたから。
「寝るんだったら早めに寝な、俺たちは交代で見張りすっから」
そっちの方が深刻な問題だ。
老人の面倒見ないといけないし、なおかついつ攻めてくるかも分からないHG・・・
そう言って離れることにした、とりあえずハッサクと2人で交代で寝ずの番だ。

ビャッコは無言でこくんとうなづく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冷たい風が頬を打つ。
でもビャッコの心は・・・少しだけ暖かくなっていた。
憧れのMT。
いろいろあったけど、ぼくの前には今、それがある。

ビャッコは半分残ったコンビーフの缶を、まだ名前も知らぬMTの鼻先にそっと差し出した。



「おなか・・・すいてない?」
posted by たか☆ひ狼 at 15:20| 神奈川 雨| Comment(1) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ワラビーV 6話

第6話 ─夜明けの決心─

地平線の向こうがゆっくりと白んできた。
耳を澄ましてみる・・・かすかに風の吹き抜ける音以外は皆無だ。
「はぁぅ・・・」
何時間くらい眠ったんだろうか、コユキは思い切り背伸びをして、寝ていた頭の中を強引に起こす。
「・・・起きたか、コユキ」
岩山のかげから、これまた眠そうなハッサクの声。
「悪ィ・・・寝すぎちゃったみたいで」
立ち上がってあたりを見渡す。
昨夜と全く変わらない・・・ハッサクも、名前の知らないじーさんと、ビャッコと・・・?
「あ・・・?ビャッコのヤローは?」
寝るときは(寂しいからか)いつもコユキにべったりくっ付いて眠るビャッコだが・・・
いない?
「あのデカいヤツと一緒に寝てる・・・」
双眼鏡で辺りを警戒して見ているハッサクが、親指でクイクイと向こうの岩山・・・MTを指していた。
「あ・・・いつ」

前のめりに鼻先を突っ込んだ体勢だが、それでも間近で見るMTは勇壮で雄雄しく感じられる。
そのMTの大きな手のひらの上で、ビャッコは小さく・・・まるで胎児の様に丸まって寝ていた。
「何か・・・MTの赤ちゃんみたいだな」
ボャbとひとり言をいいつつ、コユキはビャッコのヘルメットをぽんぽんと叩いた。
「んにゃふ・・・朝・・・」
「起きろビャッコ、朝飯と作戦会議だぞ」
「・・・えむてぃー」
「あのなー・・・」

コユキは寝ぼけまなこのビャッコを小脇に抱え、ハッサク達の元へ向かった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・で、どーすんだこれから?」
昨日の残りのクラッカーをボリボリ頬張りながら、無言で缶の水を飲んでいるハッサクに問いかける。
あのHGの野郎は、恐らく仲間を率いてここに攻めてくるはずだ。
自分らの前には・・・

ブッ壊れた(HGの)ジープと。
ハッサクと。
重傷のじーさんと。
動かないMTと。
ビャッコと。

・・・何一つとして、この状況を打開できるコマが無い・・・
「・・・MTの荷台に修理工具があった、それを使ってあの車を直す」
「時間・・・どの位かかる?」
「あの壊れようじゃあな・・・今から急いでやったって・・・昼にはどうにか」
「このMTはどうする?」
コユキはあごでMTを指し示した。
「どうしようもないだろ・・・捨て「やだ!」
ハッサクの言葉をさえぎるようにビャッコが叫んだ
ヘルメット越しの上目遣いで、キッと2人をにらみ付ける。
「絶対に捨てるのやだ!」
「じゃ、どーするんだ?あの盗賊連中に渡しちゃうか?」
「それもやだ!」
「・・・・・」
シーンと静まり返る。

数分後、その沈黙を破るように、ハッサクがボャ鰍ニ話し掛けた。
「ビャッコ・・・今はわがまま言うときじゃない・・・分かるだろ?」
「・・・・・・」
「あの盗賊ヤローに捕まったら、恐らく俺たちは・・・」
深い・・・深呼吸のようなため息の後、また言葉が紡がれた。

「殺される・・・」

そしてまた、辺りが沈黙に包まれるように・・・思えたその時!

ブォ・・・ン
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

音だけで分かる、かなりのチューンを施した沫ヘ的なエキゾースト。
ハッサクは双眼鏡を手にとり、タッと駆け出す。
「ハッサク!誰が来たんだよ、もしかして奴ら!?」
ハッサクは何も答えない。
「くっそォ・・・一体どうすりゃ・・・」
生唾をゴクリと飲み込む音が聞こえ、ハッサクがつぶやいた。
「3台だ・・・昨日のあいつも含めて5人くらいいる・・・」
「・・・・・・・・」

「くそぉ!くそっ!くそっ!!!!!」
悔し紛れに岩壁に何度も蹴りを入れる。
状況はこっちの方が圧倒的に不利。
2人だけならまだどうにかなるが、怪我人と子供が付いてるんじゃどうにもならない。
緊張する。
イライラが極限にまで達する。
叫びたくなる。

どんどん近づくHGの車。

だが数分後、ビャッコ達の岩山の前10m位にまで近づいた奴らは・・・何故か停まった。
「何する気だ・・・」
先頭に停まっている車の中から、いかにも親分格と思われる図体のデカい男が降りてきた。
年齢的にはかなりいい年だ、袖の無い真っ黒な革ジャンが、極悪な雰囲気をかもし出していた。
その男は、もう一人の男から何か銃のようなものを手渡されると、それを口に近づけた。

キイィィィィィン!!!
耳に射し込むハウリング音、年代モノの電動メガホンだ。
「あー、そこに隠れているオメー達、聞こえるだろ?」
野太い声が辺りに響きまくる。
「俺らは・・・まぁ言わなくても分かるわな、昨日お世話になったアイツのボスってぇもんだ」

「ボスだかカスだか知らねぇけど、さっさと本題言えっての・・・」
岩陰に身を潜めている4人。
コユキは緊張が思いっ切りピークに達している。

「で、一つ取り引きと行こうじゃないか!あン?」
ボスの声はますますキンキンと響き渡る。
「おめーらの持ってるそのMT、それを素直に渡してくれたら、命だけは助けてやってもいい」
ハッサクはぶんぶんと首を横に振った。
言わなくったって分かる、そんな条件、絶対に嘘八百だ、と。
「まぁ、そこでちょっと考えといてくれや!あのお天道さんが真上くらいにまで上ったら聞きに来るからよ!」
またうるさいハウリング音の後、周りが急に静まり返った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さて・・・」
ハッサクが地面にどっかとあぐらをかいた。
「・・・・・・・・」
「夜が明けたばかりだから・・・このまま行けばあと数時間でタイムリミットの昼だ」
「・・・・・・・・」
「・・・言わなくても分かるな?2人とも」
少しの沈黙の後、コユキが口を開いた。
「あのMT・・・じーさん、乗れるかな?」
ハッサクはかぶりを振った。
「無理だ・・・明け方から呼吸が荒くなってる」
それを聞いて、コユキは深いため息をついた。
「じゃあハッサク・・・お前がこれに乗っ」
「バカ言うな、ジープの修理は誰がやるんだ?」
「いや、分かるけどさ、唯一の手段だと思うんだ、こいつがさ」
じりじりと、陽が地面を照らしていく。
「そんなこというんだったらお前が乗れ、コユキ」
「いや・・・ちょっと勘弁」
「へ???」
「あ、だからさ・・・その、これはちょっと無理・・・かなって」
だんだん言葉がしどろもどろになっていく。
「さっき・・・ちょっとのぞいて見たんだ・・・中をさ」
「で・・・?」
「俺・・・駄目なんだこういう狭いヤツって・・・怖くって」
「閉所恐怖症・・・ってヤツか」
「平城京?」
「ちがう、狭いところが性質的に駄目な人間っていうのがいるんだ、それが閉所恐怖症って言われてる」
「じゃ・・・俺はそのへーしょーきょーってヤツだなきっと」
ハッサクは首を縦に振った。

すると、足元で眠っていた老人が少しだけ・・・動き出す。
「話は・・・大体聞かせてもらった・・・」
体の奥から絞り出すような声・・・かなり苦しそうだ。
「元はと言え・・・ば、この私・・・の責任だ、ならば・・・」
「無理だっておっさん、そのケガじゃ」
「だったら一体どうするんだ?コユキ」
寡黙なハッサクの言葉尻に、少しだけイライラがこもって来た。
「無理も何も、こーなったら降伏してどーにかするしかないだろ?」
「そっちの方が無理だ、全員殺される」
「急いで車直すか?昼までにだったらまだ間に合うし」
「見られたら・・・間違いなく逃げると思って逆に襲われる!」
「じゃ一体どーすんだよ!あれもダメこれもダメ、少しはこっちの意見だって尊重しろハッサク!」
「尊重も何も、マトモな作戦なんて何一つとして無理だ!」
イライラが極限状態にまで積もった2人が遂に衝突した。
それは、終わらない口論のようにさえ見えた・・・が。

「ぼくが・・・」

「え?」
「あン??」

その言葉は、喧騒の中に凛と・・・しかし静かに響いたかのように思えた。

「ぼくが・・・乗るよ」

ビャッコの静かな一声。



「ぼくが・・・あのえむてぃーに・・・乗る!」
posted by たか☆ひ狼 at 15:19| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

連載小説「ワラビーV」のおさらい。

新PCにはまだまだ慣れてないけど、モチベーション上げなきゃ皆さんに申し訳立たない罠。

自HPで連載中のオリジナル小説「努力結実!ワラビーV」を知らない方にもここでプチ公開いたします。

現在、1〜6話まで公開中です。
UPは6話から順に上げていきますんで、読みやすいかも。
posted by たか☆ひ狼 at 15:18| 神奈川 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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